
2010年、東京ヴェルディの指揮官に就任した川勝良一は、強きヴェルディを取り戻すべく、パスサッカーを掲げた。1年目でその基礎を築くと、2年目となった今シーズンは、攻撃力が格段にアップ。J2の20チーム中、最多となる69得点をマークし、見て楽しく、見て面白いサッカーを浸透させた。2年連続で5位に終わり、目標であるJ1昇格にはあと一歩及ばなかったが、就任3年目となる2012年はきっとやってくれる。強き東京ヴェルディをよみがえらせようとする指揮官に、今シーズンを振り返ってもらった。

――2011シーズンを終えて、東京ヴェルディは16勝11分11敗の5位という成績でした。J1昇格という目標は、あと一歩のところで達成できませんでしたが、この成績についてどう感じていますか?
「結果的には2010年と同じ5位という順位に終わったけど、その内容は昨年と今年では全く違うものだった。就任1年目の2010年は、ディフェンスが耐えながらチームを作っていった。一番苦労したのは攻撃のところで、まずはどうやって相手の守備を崩して得点を奪うのか、それまでの形をどう組み立ていくのか、そして誰が得点を取るのかということを1年かけてやってきた。就任2年目の2011年は、前線も含め、チームが目指すイメージがだいぶ共有できるようになった。その一方でパサーというか、攻撃を組み立てる、構成する選手がいなくなったので、そういった部分でのやり直しを強いられた。そのためシーズン序盤はいろいろな選手をプレーさせ、試してきた。その中で個が成長してくれて夏以降は、目指すべきサッカーができるようになった。パスサッカーの先にあるもの……選手個々がスプリントする方向であったり、パスの方向であったり。これが夏くらいからできるようになって、FWにケガ人が多く出て、人材不足にもかかわらず、本来は中盤である阿部(拓馬)やマラニョンのがんばりと、チームが彼らの能力を引き出してくれた結果、成績もついてきた。総得点69はJ2の20チーム中、最多だったし、単純に昨年と比較しても20得点くらいは数字が跳ね上がっている。その一方で、得点力が上がった反動というわけではないけど、昨年できていた守備が耐えていた部分、1-0や2-1といった競った試合を落としてしまった。これは得点力がグッと上がり、どこかで正しいポジショニングができていなかったり、一対一の場面でマークが緩くなってしまったりという、甘さが原因でもあったと思う」
――2年連続の5位という結果も、その内容や過程は全く違うものだったんですね。
「今年、接戦をものにできなかったのは、DF陣だけのせいではなく、得点力が上がり、前年以上に対戦相手から警戒され、守備を固められるようになったこともある。そうした相手の攻撃は必然的にカウンターになってくるから、それに対する準備を昨年以上にしなければいけなかったかもしれない。セットプレーからの失点に関しても、数字的には昨年のほうが多いんだけど、今年は特にセットプレーからやられているように思えるよね? それは、今年は競っている試合のときにセットプレーから失点し、直接の敗因になっているからなんだと思う。ただ問題は1つや2つではなく、たくさんある。来シーズンも、それをいくつか抱えてスタートしなければならないだろうけど、同じことを繰り返さないようにやっていきたい」
――就任1年目から2年目へと移行していく中で、もっとも改善しなければならなかった部分とはどこなのでしょうか?
「チームの心臓と言える柴崎晃誠(現・川崎フロンターレ)が抜けたのが、まずは大きかった。サッカーは11人でやるものだけど、例えばガンバ大阪から遠藤保仁が抜ければ、少し違うチームになるでしょ? それくらいチームの心臓と言える選手は、チームのサッカーに影響があるんだよね。そういう選手はほとんどミスをしない。それはどういうことかというと、チームメートはボールを預けられるという安心感を持つことができる。その選手一人で2?3秒時間を作ってくれるだけで、その後の展開はすごく変わってくる。通常ならば、パスをつないでそうした時間を作っていくものだけど、それを1人がやってくれれば、ディフェンスラインも上げられるし、サイドも攻撃に加われる。戦術も無数に選択肢が出てくるんだよね。そこが抜けただけに、シーズン序盤は、見極める時間が必要だった。公式戦でやれるかどうかはキャンプやプレシーズンマッチだけではどうしても判断できないところがあるからね」

――今シーズンは、パスサッカーというベースはありながらも、新たなチームの心臓を作るところから始めたわけですね?
「昨年は6試合目、今年は5試合目でリーグ戦に初勝利しているけど、その勝ち方というのも全く違ってた。就任1年目は、それまで外から見ていたから、このチームが、選手たちが、J2でどのレベルにあるかを探りながらやっていたところもある。だから、試合を重ねる中で修正していく必要があった。2年目の今年は、1年目にできあがったチームの心臓がなくなって、その上でどのくらいパスサッカーができるのかを見極めていく必要があった。ただ実は、シーズン序盤のほうが、数字上はボールポゼッション率が高かったんだよね。でも、勝てていない。それはなぜかというと相手の裏のスペースに走り込む動きだったり、相手DFが背を向くようなパスだったりが少なかった。夏前に、それまでの試合の映像を見返していて感じたのは、横パスが多かったり、同じテンポでボールを動かしていることが多かった。うまくやっているように見えるけど、シュートを打つ前の動き、相手が混乱するようなパスがほとんどなく、カウンターを食らってほとんど負けていた。
中盤の構成をやり直すにあたって、ポゼッションを維持することに固執しすぎていた。ショートパスの本数が、昨年よりも多いというデータもあったから、ちょっと錯覚していたところもあったのかもしれない。それに気がついたタイミングで、阿部やマラニョンが機能するようになってきたこともあって、最終ラインから前線にボールを入れるとか、積極的に仕掛けていくことを中盤に要求した。それがシーズン中盤以降、成績が上向いた要因でもある」
――シーズンを終えて、新たなる心臓は見つかったのでしょうか?
「まだ小さいけど、大きくなる可能性を秘めている心臓が2つ、3つくらいはできたと思う。今は正直、J1で即戦力として戦える選手は11人いないかもしれない。だから、小さくても、1つが押さえ込まれても、あとの2つが何とかするというチーム作りを考えてきた。(小林)祐希も(高橋)祥平も成長してくれたし、阿部にしても本来はサイドハーフなのによくがんばってくれた。チームを作っていく過程でも悪くないサッカーをやっていたし、数字的に一番、得点を奪えたことも評価できる。ただ、それが昇格という結果とはイコールにならなかった。もう一度、チームを見直して、今、分かっている改善点を解消して新シーズンを迎えたい。来年は就任して3年目だし、惜しかったって言われるのは悔しいからね」